「あー、もうこんな時間!」
「あれもこれもやらなきゃ…」
毎日、時間に追われて、息つく暇もない。
現代社会に生きる私たちは、いつも時間に急かされ、心の余裕をなくしがちです。
そんな慌ただしい毎日の中で、ふと空を見上げて深呼吸をした時、子どもの寝顔に心が安らいだ時、私たちの心は、ほんの一瞬、静寂を取り戻します。
仏教の教えには、「行住坐臥(ぎょうじゅうざが)」という言葉があります。
これは、歩く、立つ、座る、寝るといった、私たちにとって当たり前の行動の中にこそ、人生を豊かにするヒントが隠されていることを教えてくれる言葉です。
今回は、この「行住坐臥」の教えを紐解きながら、私たちが、今この瞬間を大切に生き、心穏やかな日々を送るためのヒントを探っていきましょう。
「行住坐臥(ぎょうじゅうざが)」ってどんな教え?
「仏教の教え」と聞くと、少し難しそうに感じるかもしれません。
しかし、「行住坐臥」は、とてもシンプルで、私たちの生活に密着した教えです。
- 行: 歩くこと
- 住: 立つこと
- 坐: 座ること
- 臥: 寝ること
そう、行住坐臥とは、私たちが毎日繰り返している、ごく当たり前の行動そのものを指しています。
仏教では、これらの行動一つひとつに、心を込めて向き合うことが大切だと説いています。
歩くときは、一歩一歩を踏みしめるように、
立つときは、背筋を伸ばして、
座るときは、姿勢を正して、
寝る前は、今日一日に感謝しながら…
このように、何気ない行動に心を込めることで、私たちの心は少しずつ穏やかさを取り戻していくのです。
「今、ここ」に意識を集中する
「行住坐臥」の教えは、「マインドフルネス」という考え方と共通点があります。
マインドフルネスとは、「今、この瞬間」に意識を集中することで、心の安定や集中力を高める方法として注目されています。
企業が社員研修に取り入れていることでも知られていますね。
「行住坐臥」も同様に、「今、この瞬間」の自分の行動に意識を向けることを大切にしています。
例えば、歩くときに、ただ目的地へ向かうためだけに歩くのではなく、風の音、鳥のさえずり、足の裏の感覚などに意識を向けてみる。
そうすることで、私たちは、日常の中に潜む小さな幸せに気づくことができるのです。
お寺で行われる坐禅も、「行住坐臥」を体感できる実践方法の一つです。
静かな空間の中で、姿勢を正して座り、呼吸を整え、雑念を払い、心を静寂に導く。
この一連の動作を通して、私たちは、「今、ここ」に意識を集中することの大切さを学びます。
日常生活の中で「行住坐臥」を実践するには?
「行住坐臥」を実践するために、特別な修行は必要ありません。
大切なのは、「今、この瞬間」に意識を集中すること。
早速今日から、日常生活の中で「行住坐臥」を意識してみてはいかがでしょうか?
行:歩く
- 通勤途中、いつもの風景をじっくり観察してみましょう。新しい発見があるかもしれません。
- 歩くスピードを少しだけゆっくりにして、足の裏が地面に触れる感覚を意識してみましょう。
- 「今日も一日、無事に歩けることに感謝しよう」そんな気持ちを込めて歩いてみましょう。
住:立つ
- 信号待ちの時間、電車を待っている間、背筋を伸ばして、ゆったりと呼吸をしてみましょう。
ほんの数秒でも、心が落ち着きます。 - 誰かと話す時、相手の目を見て、しっかりと立ちましょう。
相手への尊敬の気持ちが伝わります。
坐:座る
- 食事の前には、手を合わせて「いただきます」と感謝の言葉を伝えましょう。
食べ物のありがたみを感じ、感謝の気持ちで食事を楽しむことができます。 - パソコン作業中は、背筋を伸ばし、姿勢を正して集中力を高めましょう。
こまめな休憩も忘れずに。
臥:寝る
- 寝る前に、布団の中で今日一日の出来事を振り返り、感謝できることを探してみましょう。
「ありがとう」の気持ちで一日を終えることは、穏やかな眠りへとつながります。
「行住坐臥」がもたらす、心の豊かさ
「行住坐臥」の教えは、私たちに、心の豊かさとは何かを教えてくれます。
それは、決して特別なものではなく、日常の些細な瞬間の中にこそ存在しています。
歩く喜び、立つ安定、座る落ち着き、寝る安らぎ。
これらの当たり前の行為に心を込めて向き合うことで、私たちは、今この瞬間を大切に生きることができるのです。
仏教では、「感謝」の心も大切にしています。
「生かされていることへの感謝」
「周りの人への感謝」
「すべてのものへの感謝」
「行住坐臥」を通して、私たちは、日常の中に溢れる感謝の気持ちに気づくことができるでしょう。
そして、感謝の気持ちは、私たちの心を穏やかにし、周りの人々にも温かい光を届けてくれるはずです。
慌ただしい毎日の中で、心の余裕を失いがちな現代人にとって、「行住坐臥」の教えは、今を大切に生き、心穏やかな日々を送るための羅針盤となってくれるのではないでしょうか。