目次
はじめに
仏教において亡くなった方に名づけられる「戒名(かいみょう)」と「法名(ほうみょう)」という言葉を聞いたことがある方も多いでしょう。どちらも大切な故人を弔う際に授与される名前ですが、宗派や由来、意味合い、授与の形式などには大きな違いがあります。
本記事では、戒名と法名それぞれの定義や歴史、仏教における意味、宗派ごとの特徴、受け取り方・選び方などを詳しく解説していきます。多くの方が疑問に思う費用や注意点にも触れながら、できるだけ分かりやすくお伝えします。
「いつ戒名が必要なのか?」「どうやって法名を受ければいいのか?」といった疑問の解消につながる情報を網羅していますので、ぜひ最後までご覧ください。
1. 戒名と法名の基本的な違い
1-1. 戒名とは
「戒名(かいみょう)」とは、一般的に浄土真宗以外の宗派──たとえば臨済宗・曹洞宗・真言宗・天台宗・日蓮宗など──で、亡くなった方に授与される名前を指します。仏門に入った証として与えられる「戒」を含む名であることから「戒名」と呼ばれます。
日本の伝統的な仏教儀礼では、亡くなった方が仏の弟子となることを示すために戒名を授ける考え方があります。もともとは生前に出家し、仏門に入った証として付けられる名前でしたが、現在では一般の在家信者も死後に戒名を授けられるのが一般的となりました。
1-2. 法名とは
「法名(ほうみょう)」とは、主に浄土真宗で使用される呼び名です。浄土真宗の場合は、戒律を重んじるのではなく、阿弥陀如来の本願を信じて往生を願う教えを特徴としているため、亡くなった方に授与する名前を「戒名」ではなく「法名」と呼びます。
法名は浄土真宗において「仏弟子となった証」「仏の教えを信じる者の名前」という意味合いを持ち、ほかの宗派が用いる戒名と同じように死後の名前として扱われます。ただし、浄土真宗では生前に「法名」を受けることも推奨されており、生きているうちから仏と縁を結ぶという意味合いがあります。
1-3. 宗派による呼び方の違い
- 浄土真宗:法名
- 浄土真宗以外:戒名(禅宗、真言宗、天台宗、日蓮宗など)
「戒名」と「法名」は、本質的には「亡くなった方が仏の弟子となった証」として付与される名前という点で共通しています。しかし、浄土真宗では戒律を重視しない教義上の特徴から「戒」という字を使わず、代わりに「法」によって仏の道を示すため「法名」という名称を用いています。
2. 戒名の意味と成り立ち
2-1. 戒名の歴史的背景
戒名の由来をひもとくと、もともとは出家者が仏門に入る際に師僧から授けられる名前でした。仏教では、生まれ持った俗名から離れて新たな生活を始めるために「法名」や「戒名」を授かる慣習があります。
中国から日本へ伝来した仏教文化は、鎌倉時代や室町時代を経て武士や庶民にも広まりました。特に江戸時代、檀家制度が確立した影響で、在家の人びとも死後に戒名を授けてもらう習慣が定着します。
2-2. 戒名に込められた意味
戒名は「戒律を受けて仏弟子になる」という意味が込められています。戒律とは仏教が示す道徳や規律のことで、「不殺生戒(生き物を殺さない)」などが有名です。
在家信者の場合は、実際に出家して戒律を守る生活をするわけではありません。しかし、亡くなった後に仏様のもとで修行する、あるいは故人が仏弟子となり往生を遂げると考えられており、その証として戒名をいただくのです。
2-3. 戒名の構成・ランク
戒名は、一般的には「○○院○○○○居士」「○○院○○○○大姉」など、院号・道号・戒名・位号の組み合わせで構成されます。
- 院号:寺院名や尊称を表す
- 道号:仏道に入った証
- 戒名(中心となる部分):仏弟子としての名前
- 位号(居士・大姉・信士・信女など):男女や身分に応じた尊称
これらは菩提寺の住職や僧侶が決め、故人の人柄や生前の活動、家柄などが考慮される場合もあります。また、一般的に「院号」や「院殿号」が付されるとランクが高い(格が高い)とみなされる傾向があり、結果的にお布施の額も変わってくることが多いです。

3. 法名の意味と成り立ち
3-1. 浄土真宗における法名の特徴
浄土真宗では、本来「戒律」をあまり重視しません。阿弥陀如来の本願を信じて念仏を唱えることで極楽往生が叶うという教えに基づいており、ここに「戒」という字を使わない理由があります。そのため、同じく死後の名前であっても「戒名」ではなく「法名」と呼ばれるのです。
また、浄土真宗では生前に法名を受ける「帰敬式(ききょうしき)」や「お坊さんへの得度式」といった儀式が推奨されることがあり、存命中に仏の教えを受け継ぐという精神を重んじています。
3-2. 法名の歴史的背景
浄土真宗の開祖・親鸞聖人は自らを「愚禿親鸞(ぐとくしんらん)」と名乗るなど、従来の仏教で重視されてきた「出家」「僧侶らしさ」とは異なる在家寄りのスタンスを取りました。この背景には、律宗に由来する厳格な戒律を守れない人でも阿弥陀仏の救いを受けられる、という平等な教えが影響しています。
こうした「浄土真宗は戒律にとらわれない」考え方が、戒の字を外して「法名」と呼ぶ大きな要因となりました。
3-3. 法名と院号・道号
浄土真宗では「戒名」という呼称を使わないため、基本的に「法名」だけが授与されます。ただし、院号や道号を付けるケースもゼロではありません。特にご寺院や宗派の大きな貢献者などは、より格式の高い法名が授けられることがあります。
しかし、浄土真宗においては「院号」が付与されることは比較的少なく、あくまで念仏の教えを大切にするという考え方が優先されます。そのため、院号の有無が戒名のように大きなランク差を生むわけではない点が他宗派との相違点と言えるでしょう。
4. 宗派別の戒名・法名の違い
4-1. 浄土真宗本願寺派・大谷派
浄土真宗本願寺派(お西)や真宗大谷派(お東)などでは「法名」と呼び、戒名とは呼びません。院号や道号を付ける場合もありますが、一般の方に対してはシンプルな法名が主流です。また、「釈○○」というように「釈」の字を頭につける形を取ることが多くあります。これはお釈迦さま(釈尊)の弟子であるという意味を込めているためです。
4-2. 臨済宗・曹洞宗などの禅宗
禅宗では「戒名」という呼称が一般的です。亡くなった方が仏弟子となるための名として寺院で授与されます。戒名の末尾につける位号としては「居士(こじ)」「大姉(だいし)」「信士(しんじ)」「信女(しんにょ)」などがあります。
また、特に功績がある場合や高齢であった場合には「院号」や「院殿号」が付与されることもあります。このように、戒名は家柄や故人の社会的立場、菩提寺との関係性などによって変化する点が特徴的です。
4-3. 真言宗・天台宗・日蓮宗
これらの宗派も禅宗と同様に「戒名」という呼び方が一般的です。宗派ごとに特徴的な祈祷や修行形態はありますが、亡くなった方に与えられる戒名には大きな違いはありません。ただし、日蓮宗では日蓮上人を開祖とするため、戒名に「日」の字が用いられることが比較的多いとされています。
5. 戒名・法名を授かるタイミングと流れ
5-1. 通夜・葬儀での授与
多くの場合、戒名や法名は通夜や葬儀の際に授与されます。遺族が菩提寺や僧侶と相談し、故人の生前の人柄や宗派を踏まえて戒名(法名)をいただく流れです。
- 菩提寺との打ち合わせ:故人の宗派や遺族の希望を伝える
- 戒名・法名の選定:住職が戒名(法名)を決める
- 葬儀当日に僧侶が授与:読経の流れで戒名(法名)が読み上げられる
5-2. 四十九日や法要での授与
場合によっては、葬儀では戒名が間に合わず、後日四十九日法要のときに正式に戒名をいただくこともあります。また、法要や納骨の際に菩提寺と再度話し合い、位号や院号の付与を改めて検討するケースもあるため、臨機応変に対応できるよう住職とこまめに相談することが大切です。
5-3. 生前戒名・法名
近年では「生前戒名」「生前法名」を受ける方も増えています。これは自分が亡くなったときの戒名(法名)を前もって授けてもらうというスタイルです。
- メリット
- 葬儀の慌ただしさを軽減できる
- 自身の希望を反映した名前にできる
- お布施の金額も事前に確定しやすい
- デメリット
- 一般的にはまだ珍しく、家族や菩提寺の理解が必要
- 途中で改名したい場合には再度相談が必要
生前戒名(法名)を希望する場合は、宗派の考え方や菩提寺の慣行との兼ね合いもあるため、早めに住職と相談しましょう。

6. 戒名・法名の費用とお布施の相場
6-1. 戒名をいただくときの費用の目安
戒名をいただく際には、一般的に数万円~数十万円のお布施を包むことが多いです。院号や院殿号などの格式の高い戒名を希望する場合は、さらに高額になることがあります。あくまで目安ですが、下記のように幅広い価格帯が存在します。
- 信士・信女クラス:5万円~20万円
- 居士・大姉クラス:20万円~50万円
- 院号・院殿号クラス:50万円~100万円超
これは一例であり、地域や寺院ごとの慣習、故人との関係性によって大きく変動します。菩提寺の住職と十分にコミュニケーションを取って、予算や希望を伝えることが大切です。
6-2. 法名をいただくときの費用の目安
浄土真宗における法名は、戒名のようにランク差を大きく設けない場合も多いため、比較的シンプルな費用設定となるケースが多いです。ただし、宗派や寺院によっては同様に院号などを付与することもあり、そうした場合は高額になる場合もあります。
浄土真宗本願寺派や大谷派では、明確に料金を提示していないお寺もあります。お布施はあくまで「感謝の気持ち」という面が強いのですが、現実問題として寺院の運営にかかる費用を賄う側面もあるため、やはり数万円から数十万円単位の金額になることが一般的です。
6-3. お布施の考え方
戒名や法名をいただく際に渡すお金は「料金」ではなく「お布施」と呼ばれます。お布施はあくまで仏教の教えを説く僧侶への謝礼、また寺院を支える信仰心のあらわれであり「サービスの対価」とは性質が異なります。
そのため、寺院や僧侶に「いくら払えばいいか」を直接聞きづらいと感じる人も多いですが、トラブルや不安を避けるためにも、できれば事前におおよその目安を聞いておくのが無難です。最近では、お寺側が目安を提示してくれるケースも増えており、率直に相談することが大切です。
7. 戒名・法名を授かる際の注意点
7-1. 宗派の確認と菩提寺との相談
まずは故人の宗派を確認し、菩提寺がある場合は住職に相談するのが基本です。もし菩提寺がない場合は、葬儀社や霊園などを通じて僧侶を紹介してもらうことも可能です。
特に戒名と法名で呼び方が異なる場合、宗派によって儀式や作法も変わるため、どのように準備するべきかを早めに確認しましょう。
7-2. 家族での話し合い
戒名や法名には費用がかかることもあり、家族間で事前に話し合うことが重要です。故人が生前に意向を示していたかどうか、どういった名前を希望しているか、あるいはどのような範囲でのお布施を想定しているかなどを共有することで、後々のトラブルを避けられます。
7-3. 著名人の戒名・法名に見る例
時折、ニュースなどで著名人や有名人の戒名・法名が話題になることがあります。格式の高い院殿号が付く場合もあり、非常に長い名前になることもあります。また、故人の生前の功績を反映した漢字や言葉が盛り込まれることもあり、戒名・法名はその人の人生や思いを象徴する大切なものだとわかります。
一方で、有名人の戒名・法名が高額なお布施に関連して報道されるケースもあるため、世間的に「戒名=高額」というイメージが広まっている面も否定できません。実際にはお寺との話し合い次第で幅があるため、一概に「高い」「安い」だけで判断するのは避けたいところです。
8. まとめ
戒名と法名は、亡くなった方が仏弟子となった証しとして付けられる名前という点で共通しています。しかし、浄土真宗では「戒律」を重視しない教えから「法名」という呼称を用い、他宗派では「戒名」が一般的です。呼び方や授与のスタイル、戒名(法名)のランクや構成、費用などは宗派によって大きく変わります。
- 戒名(浄土真宗以外)
- 「戒を受けて仏弟子になる」意味合い
- 院号や道号、位号などを組み合わせる
- 費用は数万円~数十万円以上と幅広い
- 法名(浄土真宗)
- 戒律より阿弥陀如来の本願を重視
- 「釈○○」という形が多い
- 戒名ほどのランク差は少ないが、お布施として一定額は必要
亡くなった大切な人を弔ううえで、この「名前」は非常に重要な意味を持ちます。故人にふさわしい名前を授けるためにも、宗派の確認や菩提寺への相談、家族間の話し合いは欠かせません。事前に生前戒名(法名)を受けることも増えてきており、今後ますます多様化が進むでしょう。
もし戒名や法名について悩んでいる方は、遠慮せずお寺や僧侶へ相談してみてください。葬儀社に仲介をお願いする方法もあります。大切なのは、故人やご自身の信念、家族の思いをきちんと反映できるかどうかです。本記事が「戒名と法名の違い」や「費用・流れ」の理解に役立ち、穏やかな気持ちで故人を送り出す一助となれば幸いです。